平均離職率というものをご存じでしょうか。離職防止対策や離職率の改善策を考える際、自社の離職率だけではなく業界などの平均値を参考にすると、適切な評価をしやすくなります。そこで今回は、業界別や理由別の離職率と、離職防止対策としての人材育成について考えてみましょう。
毎年ほぼ一定の割合で推移する平均離職率
厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、2022年の平均離職率は15.0%でした。これが高いのか低いのかというのは、近年の平均離職率を見てみないことには分かりません。そこで、この10年間の平均離職率の推移を見てみましょう。
年度 | 平均離職率 |
2013年 | 15.6% |
2014年 | 15.5% |
2015年 | 15.0% |
2016年 | 15.0% |
2017年 | 14.9% |
2018年 | 14.6% |
2019年 | 15.6% |
2020年 | 14.2% |
2021年 | 13.9% |
2022年 | 15.0% |
2022年までの10年間の平均は14.9%です。このことは、国内全体で毎年約15%が離職していることを意味します。業界や採用方法などの要素や年代、性別といった属性によって離職率は変わってきますので、次はそれぞれの視点から離職率を見てましょう。
業界別の離職率
業界別の離職率では、「宿泊業、飲食サービス業」の離職率がもっとも高く、26.8%となっています。次いで高いのは「その他のサービス業」の19.4%で、「生活関連サービス業、娯楽業」の18.7%と続きます。
その一方で離職率の低い業界は、「鉱業、採石業、砂利採取業」の6.3%、「金融業、保険業」の8.3%、「学術研究、専門・技術サービス業」の10.0%です。高いほうから並べると以下のようになります。
- 宿泊業、飲食サービス業 26.8%
- その他のサービス業 19.4%
- 生活関連サービス業、娯楽業 18.7%
- 医療、福祉 15.3%
- 教育、学習支援業 15.2%
- 卸売業、小売業 14.6%
- 不動産業、物品賃貸業 13.8%
- 運輸業・郵便業 12.3%
- 情報通信業 11.9%
- 複合サービス事業 11.0%
- 電気・ガス・熱供給・水道業 10.7%
- 建設業 10.5%
- 製造業 10.2%
- 学術研究、専門・技術サービス業 10.0%
- 金融業、保険業 8.3%
- 鉱業、採石業、砂利採取業 6.3%
- (産業計) 15.0%
宿泊業や飲食サービス業をはじめとするサービス業の離職率が高いものの、その一方で就業率が離職率を上回っていることも特徴です。特に宿泊や飲食といった観光や季節に関係する業界は、繁忙期と閑散期から業務量に応じた人員の入れ替えがあると考えられますし、アルバイトやパートといった雇用形態の就業者数も関係していると予測できます。離職率が高いという側面だけを見ないようにする必要があるといえるでしょう。
雇用形態別の離職率
次は、雇用形態別の離職率です。この調査では、一般とパートの2つに分かれています。全体的な傾向としては、一般の離職率のほうがパートよりも低いです。一般の離職率は、この10年間10.5%前後で推移しているものの、パートは24.5%と約15%も高いです。
そもそもパートは約7割が女性で、しかもその多くは子育てや介護など家族の事情が背景にあるとされています。短時間や短期間という働き方を選んでいることから、離職率も上がると考えられるでしょう。
男女別・男女年代別の離職率
ここで、男女の離職率にはどのような違いがあるのかを見てみましょう。総じて女性の離職率のほうが男性よりも高く、2022年度では女性の16.9%に対し、男性は13.3%となっています。その差は3.6%です。
この10年間の平均で見ても、女性は17.3%で男性は13.0%となっています。差異は4.3%と2022年より大きいものの、女性の離職率のほうが高いという点に変わりはありません。
年代別の離職率は、この調査には公開されていませんが、2021年のものであれば公開されています。男女とも大きな差はなく、いずれの性別でも10~20代の離職率が比較的高く、60歳以上で再び上昇するという弧を描くのが特徴です。
なお、男性の年代別離職率は、10代が33.6%、20~24歳が24.2%、25~29歳が19.6%、30~34歳が12.8%、35~39歳が9.0%、40~44歳が7.4%、45~49歳が6.4%、50~54歳が5.6%、55~59歳が7.9%、60~64歳が19.9%、65歳以上が22.0%となっています。
注目したい離職理由
離職率を業界別、雇用形態別、男女別と見てきました。それぞれの要素や属性によって、離職率には変化があり、全体の平均離職率を見るだけでは見落としてしまう部分があることを示しているといえます。もっとも分かりやすいのは、やはりどうして退職することを選んだのかという離職理由ではないでしょうか。雇用動向調査では、転職した人の離職理由をまとめています。
離職理由は、個人的理由とその他の理由という2つに大きく分かれます。その他の理由とは、会社都合や定年・契約期間の満了といったいわゆる会社都合によるもので、個人的理由が自己都合に該当します。その他の理由(会社都合)は男性が36.2%、女性が26.5%、それ以外は個人的な理由(自己都合)に分類されます。
男女とも退職理由にはほぼ同様の傾向が見られるものの、いくつかの違いがあるのも事実です。例えば、男性では女性よりも「会社の将来が不安だった」という理由から離職する人が多く、女性では男性よりも「職場の人間関係が好ましくなかった」ために離職を選ぶ人が多いと分かります。
離職理由から考える離職防止対策
前章で取り上げたように、離職理由にはさまざまなものがあり、男女や年代によって変化があることもわかりました。それを踏まえて、ここでは離職理由トップ5(「その他の個人的理由」を除く)の防止対策を考えてみましょう。
柔軟な働き方ができる体制作り
男女ともに離職理由としてもっとも多かったのが、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」です。男性では9.1%、女性では10.8%となっています。
これには、柔軟な働き方ができる仕組み作りが必要だといえるでしょう。具体的には、残業時間や休暇取得のしやすさ、転勤の有無などが理由として考えられます。
残業時間を含む労働時間については、業務の効率化や自動化を図り、工数そのものを減らせないか検討しましょう。リモートワークや在宅勤務が効果的かを検証することもおすすめします。
休暇制度については、有給休暇の取得が難しくなっていないか、育児休暇や介護・看護休暇、傷病休暇、リフレッシュ休暇など、そのほかの休暇制度の利用実績はどのようになっているかを調べて現状確認し対策を講じるのもひとつの方法です。
また、異動や転勤を打診、命じられたことがきっかけで、離職を考える従業員も少なくないといわれています。異動のないスペシャリスト職のようなポジションや転勤のない勤務地限定職を新たに設けられないか考えてみましょう。
相談窓口の多様化
労働条件に次いで多かったのが、「職場の人間関係が好ましくなかった」です。人間関係には、上司や部下、先輩、同僚、後輩といった上下左右の関係が含まれます。それに加えて、業績重視なのかアットホームなのかといった職場の雰囲気もあるでしょう。
社風や会社、職場の雰囲気、既存の人間関係を変えるのは容易ではありません。そこで大切になってくるのが個々人のメンタルヘルスにどのように対応するかです。離職を決断する前、まだ課題が深刻にならないうちに対処するのが理想だといえるでしょう。具体的には、相談窓口を可能な限り多様にすることです。
相談できる人が職場だけに限られていると従業員が息苦しくなってしまうかもしれませんので、上司やメンター以外に常に相談できる場所を設けると良いでしょう。社内SNSや社内の交流を促進するようなリアルイベントを企画してコミュニケーションの活性化を図ったり、相談専門の窓口やカウンセラーを社外に設けたりします。
また、異動させるというのも一案です。人間関係がガラッと変わります。
評価制度の見直し
「給料等収入が少なかった」という理由は、男性で7.6%、女性で6.8となっています。注目したいのは、年代別による数値の変化です。男性では、30~40代という働き盛りの年代で収入に対する不満が高まり、女性では40代後半に同様の傾向が見られます。
もともとの給料が少ないのか、働きに応じた給料がもらえない仕組みなのかなど、収入に対する不満の原因は会社によって異なります。評価制度と昇給やインセンティブなどが連動しているかを見直しましょう。決して簡単なことではありませんが、収入によって流出防止できる人材がいるなら、取り組む価値はあるのではないでしょうか。
また、基本給の底上げにはつながらないかもしれませんが、手当や補助などを支給し、福利厚生を拡充するという方法もあります。
ミスマッチの防止
「仕事の内容に興味を持てなかった」という声が、男性では4.5%、女性では5.9%あります。特に女性では、19歳以下で20.2%と数値は極めて高いです。男性では20~24歳が9.6%と前世代の中でもっとも高く、高等教育を終えて就職した年齢層が自分の望む仕事に就けていないことから離職を選んでいると考えられます。
「能力・個性・資格を生かせなかった」という意見も、ミスマッチに深く関連しているといえます。男性は4.0%、女性は4.3%です。本来、やれるはずだった仕事ができなかったとなれば、意欲は削がれていくでしょう。
ミスマッチの防止には、詳しい業務内容や求められる資質・能力などを記したジョブディスクリプション(職務記述書)の作成やオンボーディングの強化、性格診断の導入などを検討しましょう。
異動や転勤という手段が、こちらの場合には生きてくることがあります。人員の関係で本人が希望する職場に配属されなかった場合がそうです。産休やケガ、病気などによる長期的な欠員が出た場合、一時的に代替え要員として充当するという方法もあります。
離職理由の確認と流出防止につながる人材育成を
前章では、個人的な理由による離職の防止対策について見てきました。どの会社でも一定数の離職はあるのが自然です。生産年齢人口の減少や人材獲得競争の激化が予測される中、どのような対策を講じるかによって人材の定着率にも影響を与えると考えられます。
離職理由のヒアリング
まずは、離職理由の把握から始めましょう。退職予定者に理由を尋ねます。ヒアリングシートを用意し、対面またはオンラインで聞き取り調査をしましょう。メールなどで送付し、退職日までに提出してもらうという方法でもいいかもしれません。すでに退職を決めている場合、比較的率直に事情を話してくれる可能性が高いといえます。
大切なのは、できる限り本音を話してもらうことです。通常は人事部の担当者が実施します。しかし、近年では退職代行サービスの利用も増えているようですので、場合によっては代行も検討しましょう。
やむを得ない事情による離職だったのか、ほかにできることはなかったのかなど、離職理由の分析と対策立案、今後の事業運営の改善に役立てることが目的です。
研修制度を充実させて人材育成
離職理由の中でも多かったものに、人間関係の悩みがあります。働く以上、誰しも避けて通ることはできないものですが、どのように自分の意思を伝えるかや相手の話を聞くかという点は、コミュニケーション研修でスキルアップが可能です。管理職にはマネジメント研修、全社向けにはコンプライアンスを実施することもできるでしょう。
仕事の内容そのものや自分の能力などを生かせなかったというミスマッチの部分については、新入社員研修にもつながるオンボーディングの重要性を社内に認識させたり、内容を充実させることで離職防止につなげることも可能です。
時に会社の経営判断として新規事業を立ち上げたり、事業の方向転換をすることもあるかもしれません。そのような場合には、業務に不可欠な知識やスキルだけでなく、必要な資格も取得させて人材育成し、これからも必要な人材として新たな活躍の場を提供するという方法もあります。
まとめ
今回は、離職率の推移と離職理由から考える対策について見てきました。男女ともに離職理由に大きな差異はなく、勤務条件や人間関係、収入、やりがいといったことが上位に上がっています。
会社の制度上の課題が多い中、人材育成が対応策になる可能性も見えました。人材育成は、離職防止や定着率の改善にも役立つだけではなく、業務の効率化や自動化、生産性の向上にもつながる投資です。離職率の改善策のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。