リスキリングが拓く未来!DXにおける人材戦略の岐路に立つ今、考えておかなければならないこと

リスキリングが拓く未来!DXにおける人材戦略の岐路に立つ今、考えておかなければならないこと
「リスキリング」が話題になっています。学び直しやリカレント教育とも異なるリスキリングには、今、注目を集める理由があります。2021年に入ってから各種メディアでも度々取り上げられるこの話題について、そもそもどのようなもので、何故必要なのか、どのように推進していけばいいのかについて考えてみます。各方面で顕著になりつつあるリスキリングの動きを、このタイミングで取り入れましょう。

この記事の内容

  • リスキリングとは?類似する考え方との違い
  • リスキリングの前提となるDXとの関係
  • 国内外におけるリスキリングの事例
  • リスキリングが必要とされる理由とよくある誤解
  • リスキリング実施時の課題

リスキリングとは?類似する考え方との違い


リスキリング(ReskillingまたはRe-skilling)とは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(「リスキリング~デジタル時代の人材戦略~」リクルートワークス研究所)です。

大きな意味で再教育や学び直しといわれることがありますが、ここで重要なのは単純に何か新しいものを学ぶことではありません。定義の前提として、DXという時代の流れやさまざまなデジタルテクノロジーの進化があることを忘れてはならないでしょう。

■アップスキリングやリカレント教育との違い


「アップスキリング(UpskillingまたはUp-skilling)」とリスキリングとの違いは、現在の業務との関係にあります。現在の業務が高度になる、難易度が上がる方向にスキルアップするのがアップスキリングです。

リスキリングは、現在とは異なる業務に就く場合やデジタル関連の業務に就くためのスキルアップですので、その点で異なるといえます。

類似する言葉に「リカレント(Recurrent)教育」があります。一般的に生涯学習として広く知られていますが、こちらは大学などの高等教育機関で学んだ後に就労するというものです。学習に専念する期間と就労する期間を生涯にわたって繰り返すという点で、リスキリングとは異なります。

リスキリングの前提となるDXとの関係


リスキリングが注目される理由のひとつに、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)との関係性があります。DXという大きな流れの中で、リスキリングは避けて通れない必要不可欠なものだからです。DXについては、経産省が2018年から推進していますので、ご存知の方も多いでしょう。

DXの中でも人材戦略にフォーカスするリスキリングは、現在そして今後必要とされるデジタルスキルの習得を促しています。程度の差こそあれ、コロナ禍によって、あらゆるビジネスでECやアプリなどのようにデジタル化へと大きな転換を求められました。ビジネスモデルが変われば、当然ながら求められるスキルや人材像も変化します。

まだあまり聞きなれないかもしれませんが、2021年に入ってから新聞などのメディアで取り上げられるようになってきていますし、ウェブコンテンツの量や質も増しつつあります。その背景にあるとされているのが、ダボス会議でのリスキリング宣言です。

■2020年1月のダボス会議で宣言されたリスキル革命


2020年1月に行われたダボス会議での宣言は、リスキリングを強力に推進するものでした。「リスキル革命への動員」として2030年までに全世界で10億人のリスキルを目指すことが打ち出されています。また、現在を第4次産業革命と位置づけ、「数年で8000万件の仕事が消失する一方で、9700万件の新たな仕事が生まれる」とも予測しています。

経済界に大きな影響力を持つといわれるダボス会議でのリスキル宣言をどう捉えるか、それが企業における人材戦略の成否を左右するといっても過言ではないでしょう。

国内外におけるリスキリングの事例


国外では、大手有名企業が次々にリスキリングに取り組んでいます。GAFAの一角であるAmazonは、2025年までに米Amazonの従業員10万人をリスキリングすると発表、その費用として総額約700億円を投じるとしています。

Walmartでは、2016年からバーチャルリアリティー(VR)を利用した従業員の訓練が始まっています。年に一度の大がかりなセールに備えて、経験のない従業員向けにVRを用いて事前に学習させるプログラムが導入されています。混雑や殺到する問い合わせを乗り切るメンタルを準備、お客様対応のトレーニングにリスキリングを役立てています。

米Microsoftは、コロナ禍で失業した2500万人を対象に、リスキリングのためのオンラインプログラムを無償で提供しています。この取り組みは日本マイクロソフト株式会社でも展開され、世界的に不足するデジタル人材の育成に取り組んでいます。

■国内でも次々に取り上げられるリスキリング事例


国内でもリスキリングに対する取り組みが注目されるようになってきました。日立や富士通、住友商事、三菱商事、丸紅など、デジタル人材の育成に注力している企業の事例が少しずつ認知されてきています。

2021年7月7日の日経新聞の朝刊一面に、リスキリングの事例が取り上げられたことをご存知の方も少なくないでしょう。記事の中では、キヤノンやサントリー、三井住友などが従業員の再教育に取り組んでいることを発表しています。

キヤノンは、就業時間を使って工場従業員を含む1500人を対象に、プログラム言語やセキュリティーの教育を、三井住友は銀行の従業員5万人を対象として、デジタルツールの活用法を習得させることが取り上げられています。

同記事では、リスキリングという言葉の説明とともに、成長分野では慢性的な人材不足にあるということや、日本ではキャリアアップのための再教育の機会が少なく、成長分野へと人材が流出しにくい状態が生まれているとも述べられています。

大手企業の事例が目立ちますが、中小企業も置かれている状況に変わりはありません。成長分野に食らいついていくためには何が必要かを考えておかなければならないでしょう。中小企業ならではのスピーディーさや機動力をぜひ活かしていただきたいと思います。

リスキリングが必要とされる理由とよくある誤解


リスキリングが注目されるのには、ほかにも理由があります。大きなものとして挙げられるのは、「人材不足」やそれに伴う「採用のコスト高」、「雇用の流動化」などです。

人材不足や採用のコスト高については、改めて申し上げるまでもないかもしれません。労働生産人口は1997年の8,699万人をピークに減少へと転じ、2020年には6,868万人と、この約25年で1,831万人減少しました。

現時点ではコロナ禍もあり、就職難や失業率に注目が集まりがちですが、働き手が減り続けていることや今後も減少が見込まれていることに変わりはありません。当然ながら、人材不足や採用のコスト高がすぐに改善される見込みは薄いといえます。

このような状況下、新卒・中途を問わず視野が広く自ら考えて動ける優秀な人材は、どの企業でも欲しがるため獲得が難しいといえるでしょう。優秀な人材ほど、自分が仕事を通してどのように成長できるのか、社会貢献できるのかを冷静に見ていて、それが望めないと判断すると他社へと関心が向くといわれています。

新卒社員も採用から戦力になるまでに教育が必要なことを考えると、社内の人材を再育成するという方法が現実的かつ効果を期待できるということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

■リスキリングに対する誤解


リスキリングによくある誤解として挙げられるのが、OJTで間に合うと考えられている場合です。OJTはその言葉が表す通り、実務をこなしながらトレーニングを積んでいくことですが、リスキリングは、今はまだ存在しない仕事やこれから必要になる仕事のためにデジタルスキルを身につけるという意味で、OJTと異なるということができます。

OJTはリスキリングそのものに活用されるのではなく、リスキリングで新たなスキルを習得した人が社内展開するために使われるべきではないでしょうか。

DXについても、デジタルスキルを必要とする部署だけの問題と考える向きがあるようです。しかし、日本を含む全世界にDXという大きな波がやってきている現状で、自社のデジタル部門だけが対応すればいいというのは、DXが対岸の火事で、自分事として考えていないということを示してしまっているといえるでしょう。

リスキリング実施時の課題


リスキリングやその前提となるDXは、デジタルテクノロジーに支えられる比較的新しい考え方です。自社に導入する、研修を実施するとなった場合、その必要性や研修の有効性に疑問が投げかけられることもあるかもしれません。

前回、Googleの資格を取り上げていますが、その中でスキルショップという仕組みでは誰がどのようなスキルを持っているかが可視化されているということに触れました。

リスキリングの実施においてまず重要になるのは、現状のスキルの可視化と目標とするスキルの設定といえるでしょう。人材戦略として、経営層が従業員にどのようなスキルを求めているのかが明確に示されている必要があります。

DXを踏まえて、どのような人材として更なる活躍をして欲しいのか、新たなスキルを身につけることでどのような機会やポジションが与えられる可能性があるのかなど、キャリアデザインと両輪で考えることも重要です。

そして、リスキリングに沿ってキャリアップをした従業員が実際の業務で活躍した場合、どのような評価やインセンティブが与えられるのかまで考えておくと、モチベーションアップにつなげることができるでしょう。

その一方で、リスキリングに消極的な従業員がいることも考えられます。やらなければならないとわかっていながらも、さまざまな理由により習得がなかなか進まないケースもあるでしょうから、研修中のサポートやフォローアップも準備しておくことをおすすめします。

■人材を活かすリスキリングを


新しいスキルの習得が遅々として進まない、または苦手でどうしても習得できない従業員をどうするかというのも課題です。この場合、従業員の入れ替えという発想になりがちですが、これまで蓄積してきたノウハウをどのように活かすかという問題が残ります。

リスキリングは切り捨てのきっかけとしてではなく、従業員の再スタートのきっかけとして活用されるべきだというのが私見です。そうでなければ、足切りのためのテストのような役割となってしまい、本来の目的を達成することが難しくなってしまうでしょう。

リスキリングに対して抵抗または不要論を展開する人の多くは、おそらく評価の低下や失業への不安を抱えているのではないかと考えられます。そこをどのように考えるかが、岐路になるのではないでしょうか。

そのような人々のために、セカンドチャンスを設けておくこともおすすめします。リスキリングの目的である「価値を生み出し続けられる人材」であることから逸脱しない範囲でという条件つきですが、その中で成果を上げることを認めるという余地があれば、落としどころを見つける可能性が高まるでしょう。

まとめ


リスキリングは、DXという大きな流れの中で、今後どのような人材戦略を立てるかということを問いかけるものです。DXは時代の要請ですから、これを避けるのは難しいといわざるを得ませんし、人材不足も一朝一夕に改善される問題ではありません。

数年後や数十年後の将来を見据え、どのような人材戦略を立てるか。これについては、今から準備を始めて意思決定することができます。どうすれば価値を生み出し続けられる人材を育成できるかというのは、企業にとって最重要課題のひとつといえるでしょう。

コロナ禍という状況下、決して先行きの見通しが明るい企業ばかりではないでしょうし、厳しい現実に直面している企業も少なくないでしょう。しかし、教育事業者として、リスキリングが新たなキャリアを築くきっかけやDXに取り組む機会となり、これからも多くの企業で実施されることを願ってやみません。

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この記事を書いた人

吉野竜司|Ryuzi Yoshino株式会社アイクラウド 代表取締役CEO

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