研修効果測定の実態と課題|新カークパトリックモデルが意味すること

研修効果測定の実態と課題|新カークパトリックモデルが意味すること
研修は、実施すれば終わりではありません。その効果を測定することも重要な仕事のひとつです。しかし、なかなかそこまでできないというお話を耳にすることもあります。そこで今回は、研修効果測定方法の実態と課題、測定時の考え方などについてお伝えします。

この記事の内容

  • 研修担当者を悩ませる研修効果測定
  • 研修効果測定の4つのレベル
  • 実施されている研修効果測定方法
  • 研修の前提となる人材育成上の課題
  • 教育研修の方針は定まっているか

研修担当者を悩ませる研修効果測定


多くの研修担当者が頭を抱える問題のひとつに、研修効果測定があります。研修効果をどのように測定するか、どのような測定方法が適切なのか、測定期間はどれくらいなのかなど、課題はたくさんあるでしょう。

経営者からすると、人材育成に費用を投じた結果を求めるのは当然ですし、研修受講者からすると、業務に必要とされる研修だからこそ受講するのですから、その後どのように役立っているのか、またはいないのかを確認する必要があると考えるのは自然なことだといえるでしょう。

研修効果測定の実態調査


少し古いのですが、2016年6月、リクルートが発表した教育研修に携わる管理職を対象に行った調査(n=415)を見てみましょう。(従業員500名以上の規模の企業へのインターネット調査)

調査によると、経営陣が以前よりも研修の成果や投資対効果をより求めるようになったと回答したのは、43.6%でした。研修の成果や投資対効果をもっと検証すべきだと思うという回答も「そう思う」を含む選択肢を合計すると85.5%という高さになっています。

研修効果測定の頻度については、「すべての研修で実施している」が8.9%、「多くの研修で実施している」が35.9%、「どちらかというと多くの研修で実施している」が36.4%と、合計で81.2%です。

このことから、研修効果測定の実施率の高さがわかりますが、その質に目を向けると話は変わってきます。

研修効果を「もっと検証すべきだと思う」との回答も85.5%という高さです。その理由は、投資判断のためや研修の重要性を理解してもらうため、今後の研修のためという理由に加えて、効果の低い研修の見直し、研修がやりっぱなしになってしまっているなども挙げられています。

ここで、何が研修効果測定の課題となっているのか見てみましょう。

研修効果測定の課題


同調査結果で注目したいのは、研修効果の検証をする上で障害となっていること、知りたいことは何かという自由回答です。約150寄せられた回答は、「測定方法」「資源」「周囲の理解」「他社事例」の4つに分類されています。具体的な回答には、次のようなものがありました。

□測定方法(81)

・定量化するのが難しい
・検証の方法が分からない
・受講者の本音・実態が把握しにくい
・効果が出るのに時間がかかる/効果が見えづらい
・何を指標にしたらよいか分からない

□資源(36)

・コストがかかる
・時間がかかる
・人手が足りない

□周囲の理解(25)

・経営や上位者の理解が得られない
・現場の理解が得られない
・研修自体が軽視されている

□他社事例(7)

・他社事例を知りたい

このことから、経営陣から研修効果を以前よりも求められるようになり、効果測定をもっと行うべきだと考えている一方で、測定の難しさや資源の問題、研修に対する周囲の理解不足があることが浮き彫りになっています。

個別の課題では測定方法に関する回答がもっとも多く、短期間で研修効果が出るとは限らないことや定量化が難しいという本質的なことに加え、研修の測定方法そのものや何を指標とするかわからないという技術的な回答も少なくありません。

そこで、研修効果測定の基本的な考え方をご紹介します。

研修効果測定の4つのレベル


研修担当者の方に改めてお伝えする必要はないかもしれませんが、研修効果測定の考え方としてよく知られているものに、1950年代に開発されたドナルド・L・カークパトリックの4段階評価法があります。

カークパトリックの4段階評価法


レベル1 Reaction(反応):受講者の満足度
レベル2 Leaning(理解度):研修内容の理解度
レベル3 Behavior(行動):研修内容の実践
レベル4 Result(結果):成果や業績への貢献度

レベル1は反応で、文字どおり研修内容に対する受講者の反応を含めた満足度ということになります。研修後の受講者アンケートや講師からのフィードバックなどが該当します。

レベル2は理解度で、学習したことや研修を終えたことに満足して終わるのではなく、内容をどこまで理解したかを測定します。具体的には、理解度テストやレポート提出、資格取得などです。

レベル3は行動で、学習した内容を実践できているかを測定します。例えば、研修後の本人や同僚、上司などへのヒアリングで測定可能です。

レベル4は結果で、研修受講が結果に反映されたか、つまり成果や業績向上につながったかを測定します。この場合は、研修受講前の人事評価と比較する、またはKPIの変化を追うことなどで測定可能です。

研修効果の測定は、受講者の満足度の測定から始まるのですが、企業研修として投資対効果を測定するには、いくつかの段階を踏まなければなりません。レベル4まで実施することができれば理想的ですが、研修効果が成果や業績として表れるころまでには、一定の時間を要するものも少なくないでしょう。

短期間で効果が出にくいけれども重要な研修について、どのように考えるかが問われます。

なお、2010年には、カークパトリックの息子ジム・カークパトリックによって、4段階評価法に加筆修正がありましたので、ご紹介します。

新カークパトリックの4段階評価法


レベル1 Reaction(反応)
受講者の満足度+業務との関連性や関与度(エンゲージメント)、顧客満足度

レベル2 Leaning(理解度)
研修内容の理解度+知識やスキル、学んだことの価値の理解と実践する意思

レベル3 Behavior(行動)
研修内容の実践+OJT、継続的な実践とそれを支える仕組みづくり(実践サポートや評価、報酬への反映など)

レベル4 Result(結果)
成果や業績への貢献度+期待される成果とそれに好影響を与える短期的な指標の設定

新カークパトリックモデルでは、研修内容そのものからさらに一歩踏み込んで、どのように実践につなげるか、実践を継続させるか、そして業績へとつなげるかという点に評価軸を置いています。

期待される成果を明確にし、成果を上げる従業員のパフォーマンスを分析、どのような言動が組織としての業績に大きな影響を与えているのかを指標で明らかにしようとする試みだといえるでしょう。具体的には、顧客満足度や従業員エンゲージメント、売上高、コスト抑制、品質、マーケットシェアなどが挙げられています。

研修内容はもちろんのこと、その後の行動変化と継続に重点を置いており、研修効果測定の質を上げたい場合に参考にすることをおすすめします。

では次に、実際に用いられている研修効果測定方法にはどのようなものがあるか見てみましょう。

実施されている研修効果測定方法


リクルートの調査では、実際にどのような内容をどのような方法を用いて研修効果を測定しているかも聞いています。回答の選択肢には次のようなものがあり、回答の多い順に並べています。

研修効果測定の内容とその方法


□効果検証の内容

・研修満足度 90.1%
・学習到達度 81.9%
・職場での行動変化・態度変化 81.4%
・成果創出や業務推進の程度 79.7%
・投資対効果 67.2%
※数字は「効果検証を実施している」という回答の合計値

□研修で扱う内容と測定方法

・アンケート(受講者本人) 70.6%
・アンケート(上司・部下・同僚・顧客) 47.5%
・インタビュー・面談(受講者本人) 45.6%
・インタビュー・面談(上司・部下・同僚・顧客) 32.5%
・人事評価 23.1%
・試験・テスト 22.5%
・360度サーベイ 14.4%
・組織サーベイ 11.9%
※カッコ内の数値はクローズドスキルの場合

効果測定方法はアンケートやインタビューが多く、受講者本人や職場でのヒアリングが中心といっても過言ではないでしょう。これは、研修効果測定の課題として挙げられている定量化の難しさを裏付けているともいえるのではないでしょうか。

研修効果はすぐに測定できるものばかりとは限りません。研修内容によっては、効果が表れる、感じられるまでに時間がかかるものもあります。その点、オープンスキルとクローズドスキルの違いも加味する必要があるといえるでしょう。

オープンスキルとクローズドスキルで変わる測定方法


オープンスキルとクローズドスキルは、スキルの性質の違いを表す言葉です。

・クローズドスキル:手順やルールが決まっているもの(正解がある)
・オープンスキル:状況に応じて臨機応変に発揮されるもの(正解が多様)

クローズドスキルには、具体的に、PCなどの事務機器や製造加工などに必要な機器操作、プログラミングなどがあります。正解以外では機能しないことが特徴です。

オープンスキルに該当するのは、コミュニケーション力やマネージメント力などです。目的や状況、相手に応じて柔軟に対応することが求められます。

クローズドスキルに関しては、テストのスコアや資格試験の合否などで定量化しやすい反面、目標が明確で誰もが挑戦できるスキルといえます。オープンスキルに関しては、定量化の難しさがある一方で、中核となる従業員には不可欠なスキルといえるでしょう。

どちらのスキルを学習させるかによって、研修効果測定方法を都度変えていく必要があるといえます。

研修の前提となる人材育成上の課題


ここで一旦、研修の前提となる人材育成の課題を見てみましょう。

2021年11月、労働政策研究・研修機構によって発表された「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(n=7,624)によると、人材育成・能力開発における課題として、4つの項目に回答(複数回答)が集中していることがわかります。

課題一覧


・指導する人材が不足している 31.9%
・人材育成を行う時間がない 30.2%
・育てがいのある人材が集まらない 30.1%
・人材を育成しても辞めてしまう 27.6%
・育成を行うための予算がない 11.3%

この中でも注目したいのは、人材を育成しても辞めてしまうことを課題として挙げている企業の多さです。コストをかけて育成した人材が退職してしまうのは、企業にとっての損失といえます。

カークパトリックの評価モデルにもありましたが、研修の話は、つねに人事評価や制度と一緒に語られるべきでしょう。例えば、資格を取得させて一時金や資格手当を支給する、昇給や昇格の条件に研修を組み込むなどの施策を実現させることは、可能なのではないでしょうか。

定着率を上げるために重視している取り組みとして、「賃金などの処遇をアップする」があり、その回答率は48.7%と、もっとも高くなっています。賃金アップが自分の努力の結果だと思えることは、従業員のやりがいや喜びにつながることでしょう。

ここで重要なのは、研修はオプションではなく、企業として業績を上げるために必要なものと認識させることなのではないかと考えます。そのためには、研修がどのように計画されているのかにまで話が及びます。

教育研修の方針は定まっているか


研修効果の測定には、その前提条件として、教育研修の方針が定まっているかが重要です。どのような人材を対象に、どのような研修を、どのような目的でどれくらいの期間で実施する計画なのかが決まっているかどうかだともいえるでしょう。いわゆる4W1Hです。

前述の「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」内の、従業員に対する人材育成・能力開発の方針についての質問では、「今いる人材を前提にその能力をもう一段アップできるよう能力開発を行っている」と回答した企業が30.9%ともっとも高くなっていました。

「個々の従業員が当面の仕事をこなすために必要な能力を身につけることを目的に能力開発を行っている」は22.3%で、「数年先の事業展開を考慮して、その時必要となる人材を想定しながら能力開発を行っている」が10.4%です。

採用困難やコロナ禍、DXなど、研修を取り巻く状況は決して楽観的なものとはいえないでしょう。研修のための人材や時間など、課題もさまざまです。ESGやSDGsからも、教育研修は注目を集めています。

このようなときだからこそ、自社に必要な教育研修方針や研修プランを明確にし、人材育成に注力することが求められているのではないでしょうか。

まとめ


研修効果測定は、すぐに実施できるものとそうでないものとにわかれます。企業研修では、義務教育や高等教育のように長期的な視点ではなく、短期的にどれだけ投資効果を上げているかがより強く求められますし、その傾向は近年強まっているといえます。

自社にとって重要な成果とその成果を上げられる人材が持つ能力を指標から明らかにし、そこへ向かって研修を進めていくこと、研修効果測定をしながら効果の高いものとそうでないものを取捨選択すること、そして時代の流れに応じてそれを常にアップデートしていくことが求められているといえるでしょう。

変化の激しい時代を生き抜くには、特に人の知恵や力が必要です。ご希望があればご相談に応じますので、ご一報ください。

この記事を書いた人

吉野竜司|Ryuzi Yoshino株式会社アイクラウド 代表取締役CEO

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