弊社ではリスキリング支援コースに関するニュースを度々取り上げています。今回は、リスキリング支援コース修了後に利用できる「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」をご紹介しましょう。非正規雇用の従業員を採用した際に活用できる助成金です。
リスキリング支援コース後に活用できる「キャリアアップ助成金」
「キャリアアップ助成金」とは、リスキリング支援コースと同様に、厚生労働省が管轄する助成金のひとつです。その目的は、非正規雇用で働く人材の正規雇用化や処遇改善で、全部で7つのコースがあります。その中で、今回ご紹介したいのが「正社員化コース」です。
正社員化コースでは、契約社員や派遣社員、パート、アルバイト、嘱託といった非正規雇用の人材の正社員登用した場合に支給されます。支給額は、企業規模と正社員化した人材の雇用形態によって異なり、どのような対応を取ったによる加算もあります。
企業規模と雇用形態によって変わる支給金額
キャリアアップ助成金・正社員化コースで支給される助成金は、以下のとおりです。
| 有期雇用の人材の場合 | 無期雇用の人材の場合 |
中小企業 | 80万円(40万円×2期) | 40万円(20万円×2期) |
大企業 | 60万円(30万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
キャリアアップ助成金・正社員化コースで支給される助成金
金額は、正社員化した人材一人当たりに対して支給されるものです。ここでいう2期というのは1期半年間を2回分という意味で、正社員化してから最初の半年間と、またその次の半年間で2回申請できることを意味します。
なお、ひとつの事業所が同一年度に申請できる正社員化人数の上限は20名で、2期目の申請は除外されます。(無期雇用人材の正社員化とは、例えば派遣元で無期雇用されている派遣社員を自社で正社員化することなどです)
近年では、転勤がない勤務地限定の正社員や異動がない職務限定の正社員など、一口に正社員といっても多様化が進んでいます。キャリアアップ助成金・正社員化コースでは、そのような限定的な場合でも正規雇用化したとみなされます。
対応によって得られる加算
ここでは、どのような対応によって加算が得られるのかという内容と加算額を見てみましょう。金額は一人当たりのものです。
措置内容 | 有期雇用 | 無期雇用 |
派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合 | 28万5,000円 |
対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 | 95,000円 | 47,500円 |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 (自発的職業能力開発訓練または定額制訓練以外の訓練修了後) | 95,000円 | 47,500円 |
(自発的職業能力開発訓練または定額制訓練修了後) | 11万円 | 55,000円 |
正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) | 20万円(大企業15万円) |
多様な正社員制度(※)を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) ※ 勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上の制度 | 40万円(大企業30 万円) |
厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)」より引用
非正規雇用の人材を正社員化すると、1人当たり47,500円から最大40万円が加算されます。基本的な支給額とされる30~80万円に、この金額が上乗せされるということです。
正社員転換制度や多様な正社員制度を新たに設けるとなると、実施には相応のコストがかかります。しかし、自社を勤務先とする派遣社員の正社員化やリスキリング支援コースを含む人材開発支援助成金の訓練終了後の正社員化なら、キャリアアップ計画書を作成提出せずに、利用することも可能です。
リスキリング支援コース利用後の正社員化コース活用
弊社がお伝えしたいのは、以下2つの助成金を利用する流れです。
- 人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」修了後
- キャリアアップ助成金「正社員化コース」
制度新設といった準備の負担がないだけでなく、トレーニングでスキルアップさせた上で登用したい人材がいるという場合には、この助成金を利用する価値は高いのではないでしょうか。
リスクを避ける企業では、正社員として採用する前に契約社員として契約する場合もあります。そのような場合、助成金利用にあたっての準備といった負担が少ないことに加えて、トレーニングを受けさせてから正社員化することも可能です。
人材開発支援助成金(リスキリング支援コース)は、弊社が申請サポートをご提供している助成金です。派遣社員の多い企業や最初は契約社員で様子を見てから正社員化するという企業にとっては、活用のしがいがある制度だといえるでしょう。
次に、非正規雇用の現状と課題について見ていきましょう。
非正規雇用の人材を正社員化する意味とは?
キャリアアップ助成金が目的としている非正規雇用で働く人々の処遇改善や正社員化には、どのような意味があるでしょうか。助成金の支給対象であるということは、つまり、国が経済的に支援するだけの理由があると理解できるからです。
増える非正規雇用
長引く経済成長の低迷によって、正規雇用よりもコストの少ない非正規雇用化が進んでいるといわれています。非正規雇用とは具体的に、契約社員や派遣社員、パート、アルバイト、嘱託といった雇用形態を指します。
厚生労働省によると、非正規雇用は2020年と2021年に若干減少したものの、年々増加傾向にあり、2023年には2,124万人を超え、全体の37.1%を占めるまでにいたっています。
正規雇用=正社員よりもコストが低いことから、人件費の調整として利用されることも珍しくありません。例えば、正社員(正規雇用)と派遣社員(非正規雇用)とを比較すると、以下のような違いがあります。代表的なものを取り上げてみましょう。
- 月額給与:正社員 < 派遣社員
- 賞与:正社員 > 派遣社員
- 福利厚生費:正社員 > 派遣社員
- 採用コスト:正社員 > 派遣社員
- 教育コスト:正社員 > 派遣社員
派遣社員の場合、月間で支払う給与は正社員より多いものの、それ以外の部分では正社員よりもコストが低いと分かります。特に賞与や社会保険料などの福利厚生費、採用コスト、教育コストといった面で派遣社員のほうが割安といえるでしょう。
正社員よりも派遣社員のほうが月額給与が高いのは、福利厚生や採用・教育コスト、派遣会社の運営費を含めて、派遣社員一人当たりの月額給与が請求されるからです。その一方で、契約書に記載されていない業務の遂行や新しい業務に必要となるスキルの習得については、都度派遣元との調整が必要になります。
非正規雇用の課題
非正規雇用の課題はいくつかあるとされていますが、その中でも取り上げられているのが、下記の3点です。ここでは、厚生労働省「『非正規雇用』の現状と課題」を取り上げます。
- 賃金の低さ
- 教育訓練機会の少なさ
- 不本意な非正規雇用
非正規雇用は、正規雇用に比べて賃金の低さが指摘されています。賃金カーブが正社員に比べて明らかに低く、生涯での賃金に大きな差が出てくることが予想できます。なお、時給換算すると、正社員の生涯平均賃金2,014円に対して正社員以外は1,407円です。
教育訓練機会の少なさという点でも差異が見られます。正社員に対して実施した企業割合を100としたとき、非正規雇用では、計画的なOJTが約75%、Off-JT(入職時ガイダンス)で約66%、Off-JT(職務遂行のため)で約60%、Off-JT(将来のキャリアアップのため)となると約30%にまで下がってしまいます。
不本意ながら非正規雇用で働き続ける人材の数は、年々減少傾向にあるものの、それでも2023年度は全体の9.6%に当たる196万人が、正規雇用を望みながらも非正規雇用に甘んじているという現状があると報告されています。
つまり、非正規雇用の本質的な問題点のひとつは収入の低さに集約されるということです。自由に使えるお金が少なければ、消費も控えるでしょうし、結婚や出産といったライフイベントにも消極的になる可能性があるということです。
労働生産人口の減少にどう立ち向かうか
非正規雇用を正社員化する大義名分は、経済の活性化といったところでしょう。それと同時に、労働生産人口の減少も経済成長にとって重要な課題のひとつだといえます。少子高齢化や超高齢化社会といわれて久しいですが、残念ながら人口統計の推測値は大きく外れないとされています。
つまり、長期的な経済の低迷に加えて、大きく覆ることのない労働生産人口の減少、人間の仕事を請け負うロボットやAIの発展や導入なども、今後の情勢に関係してきます。非正規雇用の正社員化にとどまらず、今いる人材をリスキリングして有用な人材へと育成することが求められているといえるでしょう。
まとめ
今回は、リスキリング支援コース終了後に利用できる助成金として、同じ厚生労働省のスキルアップ助成金・正社員化コースを取り上げました。
例えば、新規事業に向けて契約社員と採用し、リスキリング支援コースでスキルアップさせて助成金を申請します。次に、即戦力化を狙ってさらなるスキルアップをさせるべく、キャリアアップ助成金・正社員化コースで正社員化すれば、こちらの助成金も申請可能です。
この合わせ技ともいえる流れを利用すれば、リスキリングにも、その後の正社員化にも助成金が支給されます。活用できる助成金は上手に活用し、ぜひ人材育成に活かしてください。