賃上げ促進税制でリスキリングへの補助拡大!教育訓練費が控除の上乗せ対象に

賃上げ促進税制でリスキリングへの補助拡大!教育訓練費が控除の上乗せ対象に

賃上げ促進税制に関する岸田首相の発言で、リスキリング支援が拡充の方向で検討されていると明らかになりました。そこで今回は、賃上げ税制の仕組みと教育訓練費の関係性についてお伝えしていきます。

岸田内閣が賃上げ促進税制について発表

2023年9月1日に開かれた日経リスキリングサミット2023にて、岸田首相がリスキリング支援の拡充について発言し、そのことが翌9月2日の日経新聞朝刊で報じられました。リスキリング支援は、岸田内閣の目玉政策のひとつとされているものです。

遡ること約2年、2021年10月 、岸田内閣は発足時の所信表明演説で構造的な賃上げについて触れました。そして、翌2022年の10月にはリスキリング支援として「5年で1兆円 」という具体的な数値を示し、その規模の大きさが話題になったことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。

構造的な賃上げが経済の好循環を実現するために重要とし、賃上げを実現する手段として取り上げられたのがリスキリングです。今回は、「地方を含めて日本全体にリスキリングを根づかせる」「中小企業がリスキリングに活用できる助成金を拡充する」などの発言がありました。

それに加えて、中小企業向けの税優遇措置もあり、中小企業が向けの施策に重点が置かれているといえるでしょう。今回の岸田首相の発言の中でも、注目したいのは以下の3点です。

  • 賃上げやリスキングに取り組む企業への税制控除を延長
  • 中小・中堅企業が赤字の場合、税額控除を繰り越せる仕組みを創設
  • 「大企業」と「中小企業」に加えて、「中堅企業」という枠組みを追加

それぞれに詳しく見ていきましょう。

賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、法人税の優遇措置を受けられる制度です。前年度よりも支払う給与総額(ボーナスを含む)を一定の割合を超えて増やした企業を対象とし、増加分に応じて法人税額の控除が受けられます。

控除額は、大企業と中小企業とで異なります。大企業の場合は、増加額の最大30%まで、中小企業の場合は、最大40%まで控除可能です。最大というのは、いくつかの条件が重なった場合という意味で、その詳細については大企業と中小企業に分けて、それぞれに後述します。

この条件の適用期間は2022~2023年度の2年間で、その間に開始する事業年度を対象としていました。2023年3月末で終了する予定だったのですが、今回の首相の発言を受けて、適用期間を6年間延長する案が検討される予定だと分かりました。

なお、この制度は、今回新設されたのではなく、既存の賃上げ促進税制における控除枠を拡大したものです。

条件に応じた3段階の優遇

賃上げ促進税制には、税優遇を受けるための条件があります。その条件は、以下の3つです。この3つが重なると最大の控除枠を利用できることから、3段階の優遇と表現されているのでしょう。

  • 適用条件:賃上げの条件
  • 税額控除の上乗せ分①:賃上げ幅に応じた控除
  • 税額控除の上乗せ分②:教育訓練費

税優遇措置を受ける前提条件ともいえる適用条件では、支払う給与総額に対する引き上げ幅が定められています。まずは、この条件を満たすことが不可欠です。

次に、必須条件ともいえる適用条件に上乗せされる部分を見ていきましょう。この部分では、企業規模と引き上げ幅に応じて控除される税額の割合が変わります。

更に、教育訓練費が対前年度比で増加した場合も、控除される税額が上乗せされます。

この3つの合計で、大企業の場合には最大30%、中小企業の場合には最大40%の税額が控除されます。次に、大企業と中小企業でどのように条件が異なるのかを見ていきましょう。

大企業に求められる条件は、以下のとおりです。以下の3つの条件の合計で、最大30%が控除されます。

大企業の場合

  • 適用条件:継続雇用者に対する給与総額の増加率3%以上で控除額15%
  • 税額控除の上乗せ分①:継続雇用者に対する給与総額の増加率4%以上で控除額10%
  • 税額控除の上乗せ分②:教育訓練費の増加率20%以上で控除額5%

中小企業に求められる条件は、以下のとおりです。以下の3つの条件の合計で、最大40%が控除されます。

中小企業の場合

  • 適用条件:全雇用者への給与総額の増加率1.5%以上で控除額15%
  • 税額控除の上乗せ分①:全雇用者への給与総額の増加率2.5%以上で控除額15%
  • 税額控除の上乗せ分②:教育訓練費の増加率10%以上で控除額10%

大企業と中小企業の違い

大企業と中小企業との違いは、控除される税額だけではありません。給与支払い対象者も異なります。大企業の場合には、継続雇用者に対して支払った給与総額となっていますが、中小企業の場合には全雇用者が対象です。

経済産業省の「大企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック」によると、継続雇用者 とは、前年度と適用年度のどちらの年度でも毎月給与の支払いがあった者という定義になっています。具体的には、正社員や契約社員などが該当するでしょう。

それに対して中小企業の場合は、全雇用者 が対象です。「中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック」によると、パートやアルバイト、日雇い労働者も含まれるとされています。大企業に比べると経営が不安定になりやすい中小企業向けの条件だといえるでしょう。

赤字の場合の措置

ここまで法人税の優遇措置について説明してきましたが、その優遇措置が受けられない場合があります。それが、赤字の場合です。法人税は利益(所得)に対して課税されるため、そもそも利益が発生していなければ、優遇措置の恩恵を受けられません。

その点を考慮したのが、赤字で控除されなかった控除税額の繰り越しを認める制度です。中小企業と、後述する中堅企業とを対象とします。

なお、積極的に賃上げをしようとする中小企業には、税制だけではなく設備投資に対する補助金も拡充し、賃上げの実現を支援するともしています。

新たに設けられる中堅企業とは?

従来は、大企業と中小企業、小規模企業という区分でしたが、それに加えて中堅企業という区分が新設されることになりました。改めて申し上げるまでもないかもしれませんが、日本の大企業の割合は0.3% で、企業数にすると約1万社といわれてます。残りの99.7%、約360万社は、中堅企業を含む中小企業です。

これまでの区分に中堅企業を加えてみましょう。中堅企業とは、資本金1億円超から10億円以下の企業を指します。

  • 大企業:資本金10億円超の企業
  • 中堅企業:資本金1億円超から10億円以下の企業
  • 中小企業:資本金1億円以下の企業

今回、中堅企業という枠組みが設けられた理由は、過去10年間の企業規模の変化にあると日経新聞は報じています。

経済産業省によると、2012年度から2021年度までの従業員数の伸びは、大企業の49万人に対して中堅企業は49万8000人と、実績で上回ったとしています。積極的に雇用を図る中堅企業に対し、税優遇を適用しやすくすることで賃上げの機運を維持する狙いです。

賃上げ促進税制の対象となる教育訓練費について

賃上げ促進税制の対象となる教育訓練費とは、職務に必要な知識や技術を習得または向上させるための費用を指します。ここでは、中小企業の具体的な例を取り上げて考えてみましょう。優遇を受けるための条件は、以下のとおりです。

中小企業の場合

教育訓練費:前年度比での増加率10%以上で控除額10%

計算式で表すと、次のようになります。

(適用年度の教育訓練費の額−前年度の教育訓練費の額)÷前年度の教育訓練費の額≧10%

中小企業の場合は10%という切りのいい割合ですので、計算は複雑ではありません。前年度の教育訓練費が30万円なら、適用年度の教育訓練費が33万円以上で控除の条件を満たしますし、50万円の場合は55万円以上です。

赤字でないことと適用条件を満たしていることが前提となりますが、仮に前年度の教育訓練費が50万円で適用年度が55万円だった場合、合計で40%という控除枠の範囲内で55万円という金額がそのまま控除に利用できることになります。

まとめ

賃上げ促進税制には、教育訓練費の対前年度比実績によって、法人税の優遇措置を受けられる仕組みが組み込まれています。賃上げのためには、従業員のリスキリングが欠かせないということを示唆しているといっても過言ではありません。

企業側としても、リスキリングで能力を高めた従業員に対して賃上げをするのは、やぶさかではないでしょう。首相は座談会で、中小企業によるリスキリング支援の活用も訴えています。

人材開発支援助成金のリスキリング支援コースを併用しながら、貴社の人材育成や賃上げを実現し、更なる成長を目指すお手伝いをさせていただけたら幸いです。

この記事を書いた人

吉野竜司|Ryuzi Yoshino株式会社アイクラウド 代表取締役CEO

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