前回、Microsoft Power Platformについてお伝えしました。今回は、5つのアプリの中からデータ収集や分析、レポート作成するアプリ「Power BI」を取り上げてご紹介します。Excelで十分という考え方もありますが、両者を比較することで浮き彫りになる違いやPower BIの便利な使い方について見ていきましょう。
Power BIとは?
Power BIは、データ分析アプリです。BIとはBusiness Intelligenceの略で、仕事や経営のために必要なデータを適切に取り扱うことを意味します。昨今のデジタル時代には、日々の仕事の進め方や経営にいたるまで、あらゆる場面でデータに基づくジャッジが求められているといえるでしょう。だからこそ、データ分析は欠かせません。
Power BIならではの特徴的な機能
Power BIには、以下のような特徴的な機能が3つあります。
大容量データに対応
複数のデータソースを取り扱い可能
ビジュアルのインタラクティブ性(ドリルダウン、ドリルスルー)
ビッグデータへの対応をはじめとして、複数のデータソースへの同時接続も可能です。表やグラフといった作成したビジュアルをクリックすると、詳細な情報を確認することもできます。(ビジュアルのインタラクティブ性)
しかし、このような説明ではExcelとの違いがわかりにくいかもしれません。そこで、ExcelとPower BIとの違いをわかりやすくするために、両者を比較してみましょう。
ExcelとPower BIとの5つの大きな違い
慣れ親しんでいるExcelと比較することで、Power BIの特徴がより良くわかるようになります。ここでは、前述の特徴的な機能を踏まえて、以下5つの項目で比較してみましょう。
Excel Power BI 取り扱い可能なデータ量 約105万行が上限 最大数百万~1億件以上 データソースとの連携 データをまとめる必要がある データをまとめる必要がない ドリルダウン できない できる ドリルスルー できる(ピボットテーブル) できる 関数 Excel セル関数 DAX関数
ExcelとPower BIとの5つの大きな違い
取り扱い可能なデータ量と処理速度
Excelには、取り扱えるデータ量の上限があります。一部には100万行の壁と呼ばれているようですが、ひとつのワークシート内での最大行数は1,048,576行、最大列数は16,384列までとされています。
管理するデータ量や組み込んでいる計算式が複雑になるにしたがって、ファイルを開くのに時間がかかったり、計算を実行する速度が遅くなったり、エラーが起こるようになったりといった現象を経験したこともあるのではないでしょうか。
その点、Power BIでは、数百万件から1億件以上を取り扱うことができるとされています。処理速度が速く快適なこともExcelとの違いだといえるでしょう。
複数のデータソースとの連携
Excelでグラフや表を作る場合、顧客名簿や商品リスト、売上データなど複数のデータソースからvlookup関数などでデータを作ることから始める場合が一般的ではないでしょうか。ピボットテーブルを使う場合も同様に、データの準備が必要だといえます。
データ準備の作業には、思いのほか時間がかかることもあるでしょう。関数を使える人が必要ですし、参照がズレてしまったり、求めている結果とは異なる場合には修正できるスキルを持つ人でなければなりません。実は、このような細かいところでデータ作成につまずいているという場合も珍しくありません。
Power BIの場合、各マスタやデータと直接連携可能という点が非常に便利だといえます。(リレーショナルデータベース)データやマスタがそれぞれに独立して散在しているとしても、手動でまとめ直す必要はありません。最初に設定が必要ですが、グラフや表、確認したい数字に合わせて都度データを整える必要がなくなります。
データを視覚化する操作の簡単さ
ドリルダウンとドリルスルーの説明に入る前に、グラフを作る簡単さに触れておきましょう。Excelでグラフを作る場合、グラフの元となるデータを指定する必要があります。棒グラフを作りたい場合には棒グラフ用のデータを、円グラフを作りたい場合には円グラフ用のデータを用意しなければなりません。
しかし、Power BIの場合、まず作りたいグラフを選び、どのような要素を表示させるかを決めるというステップでグラフが完成します。例えば、A支社の売上推移を示す棒グラフを作成しようとしているとしましょう。この場合、棒グラフを選んでから、A支社の売上データを選択するという流れになります。
売上を月次で見るのか、年次で見るのかという切り替えもPower BIであれば簡単です。Excelの場合には、月次の売上高を集計して年次の実績を出すという処理が必要ですし、月次と年次のグラフは別で作るようになりますが、Power BIなら年次のグラフから月次のグラフをワンクリックで見ることができます。
作成したビジュアルのインタラクティブな利用
「年次集計から月次集計にワンクリックで移動できる」のが、ビジュアルのインタラクティブな利用の一例です。これをドリルダウンといいます。ドリルダウンとは、集計のレベル(階層)を一段階下げることを指します。具体的には、年次→半期→四半期→月次→週次というように、掘り下げていくことが可能です。
それとは別に、「全拠点のうち、A支社の実績について詳しく見る」ことも、ワンクリックでできます。グラフを構成する要素のひとつを詳細に見る機能が、ドリルスルーです。具体的には、全社の売上のうち、拠点別、商品別や顧客別というように視点を変えて実績を確認できる機能だといえます。
ドリルダウン:集計のレベルを一段階下げること
ドリルスルー:グラフを構成する一要素の詳細を見ること
Excelの場合には、それぞれにグラフや表を作る必要がありますが、Power BIの場合はグラフの要素をクリックするだけでまた別のデータを視覚的に確認できます。これが、ビジュアルとでーたの相互作用であり、ビジュアルのインタラクティブな利用です。
関数
関数についても、ExcelとPower BIには違いがあります。その違いとは、Excelのセル関数が1対1の関係にあるのに対し、Power BIのDAX関数では1対複数という関係が成立します。
Excelのセル関数では、ひとつのセルに入力した関数に対して返ってくる値はひとつです。つまり、1対1の関係にあります。
その一方でPower BIの場合に用いるのは、DAX関数です。DAXとは、Data Analysis Expressionsの略で、互いに関連付けたデータソース(データベース)から関数を使ってデータの加工や集計、出力ができるものだといえます。ひとつの関数で複数の値が返ってくるという点でも、Excelのセル関数と異なるといえるでしょう。
Power BIを導入するメリット
ここまで見てきたように、Power BIにはExcelにはない便利な機能があります。導入のメリットとして挙げられるのは、主に以下のようなものだといえるでしょう。
データソース(データベース)の一元管理が可能
大量のデータ整理や分析がより効率的に
BIに関する知識がなくても活用できる
データベースを含むデータソースの一元管理ができるようになるのは大きなメリットでしょう。Excelの場合、テキストデータやCSV、データベースをデータソースとすることが多いでしょうが、異なる形式のデータは手動でまとめ直す必要があります。
それに加えて、近年ではクラウドサービスを利用する企業も珍しくありません。オンプレミスやクラウド、モバイルアプリなどの大量のデータも、Power BIを通しての分析や共有なら簡単かつリアルタイムで可能です。
関数やピボットテーブル、データ分析の手法などについての知識や経験がなくても、集計やグラフなどのビジュアル作成が簡単にできるようになるのは、時短や工数削減、利用ハードルを下げるという意味で効率的といえるでしょう。
Excelならではの使い方やメリット
その一方で、ExcelにはExcelならではの使い方やメリットがあります。整理してみましょう。
基本的なデータ分析手法が利用可能
リアルタイムでのデータ更新が不要な資料作成
単一のデータソースが適している
取り扱うデータ量が少ないケースに向いている
表計算
印刷資料
Excelには、基本的なデータ分析機能が備わっています。入力や計算、集計などから得たデータをグラフなどを使って視覚化することも可能です。データの蓄積があれば、過去との比較や推移も確認できます。
単一のデータソースから得る少量のデータ分析に向いているといえるでしょう。インポートが可能ですので、テキスト形式やCSVであれば問題なく対応できます。少量のデータという書き方をしましたが、ビッグデータのような大量のデータと比較しているからであって、理論的には100万行まで取り扱い可能です。
そもそもExcelは表計算アプリですので、計算を得意とします。計算の先に控えている視覚化やデータ分析の機能を備えていることは、1985年に発売されたソフトとして非常に優秀だといえるのではないでしょうか。また、印刷に関する機能が豊富な点では、Excelのほうが優れているといっていいでしょう。
ExcelとPower BIとの使い分け
ExcelとPower BI は対立するものではなく、むしろ互いの機能を補完するものといえます。前章でお伝えしたように、Excelには表計算だけではなく視覚化や基本的なデータ分析という機能があり、それに対してPower BIには大量のデータをリアルタイムで素早く集計、分析できるという機能があります。得意分野が違うのです。
今後のExcelの変化に注目する必要がありますが、Excelは簡単なデータ入力や加工、集計、計算をふくむ帳票や資料作成といった方向に進んでいくのではないでしょうか。大量データという観点からは、一部の中小企業や小規模・個人事業といったユーザーに好まれていくのかもしれません。
まとめ
ここまでご紹介してきたように、ExcelとPower BIとには、いくつかの大きな違いがあります。その中でもっとも注目すべき点は、インタラクティブなビジュアル利用や複数のデータソースとのリアルタイム連携だといえるでしょう。ドリルダウンやドリルスルーなどの機能は、事業の分析や改善の効率を大幅に上げることが期待されています。両者の違いを知り、自社に適したアプリを選択しましょう。